両立支援シンポジウム/セミナー
鹿児島 治療と仕事の両立支援セミナー
- <開催日時>
-
2019年10月29日(火)
13:30 - 16:10 - <場所>
- ホテルウェルビューかごしま
- <主催>
- 厚生労働省
- <共催>
- 鹿児島労働局
鹿児島労働局局長 小林剛
産業医科大学病院 両立支援科 診療科長・産業医 立石清一郎氏
株式会社新日本技術コンサルタント 児玉史彦氏
三洋工機株式会社 システム部長 黒岩登志一氏
社会医療法人 博愛会相良病院 病院長 相良安昭氏
司会:鹿児島産業保健総合支援センター所長 草野健氏
基調講演
産業医科大学病院 両立支援科 診療科長・産業医 立石清一郎氏
現役世代の減少により、人手不足が加速する現状を踏まえながら、社員の健康を経営の基盤として位置付ける健康経営について紹介しつつ、両立支援を進める際のポイントについて解説。両立支援は労働者本人の申出を出発点として、個別の状況や障害などの特性に応じた、オーダーメイドの配慮・調整を行うとした上で、主治医との連携においては、病状に応じた具体的な助言が行われるためにも、事業者・労働者側からの積極的な勤務情報の提供が必要であること。また配慮には「安全配慮」と「障害特性に合わせた調整」があるためこれらを分けて考えることが重要とした。最後に立石氏は、人は病気になった瞬間に、仕事や治療、家庭、治療費・生活費のことなど決めなければならないことが極端に増えるため、「困りごと」を尋ねることが両立支援の第一歩になるとし、「まずは本人の話をじっくり聞くことから始めてほしい」と締めくくった。
各企業・医療機関の取組
株式会社新日本技術コンサルタント 児玉史彦氏
鹿児島市で建設コンサルタント業を営む同社では、2017年から健康経営や両立支援に本格的に取組、年5日間を上限とした時間有給制度の導入によって、育児、介護、通院などと勤務を両立しやすくしている。その他にも、衛生委員会の設置により、年2回ストレスチェックを行うなど産業医と共に快適な職場環境づくりを促進することに加え、時短社員制度、積立有給休暇制度(年最大で失効有給休暇を5日、上限50日積立可能)も整え、体制づくりに努めていることが報告された。児玉氏は「両立支援の仕組みや制度は徐々に浸透してきているが、今後もインターバル制度、シフト制度、テレワーク制度など整備していきたい。体制づくりには時間がかかるため、両立支援は事例が発生する前の、平時から備えておくことが大切である」と語った。
三洋工機株式会社 システム部長 黒岩登志一氏
鹿児島市で発電設備工事、エネルギープラント工事などを行う三洋工機株式会社では、傷病などを抱える従業員の相談窓口を設置。全治後または治療しながらの職場復帰を原則とし、治療しながら働く場合には、上司に対する傷病内容・治療プランの報告・相談、就労制限や職場復帰プログラムの検討、産業医の意見も聞きながら役員会での内容検討・承認が行われる。この他時間有給制度の導入、従業員に対する制度説明の他、高度先進医療やがん保険の集合教育等、関係機関との連携による取組も積極的に行っている。黒岩氏は「両立支援は会社や同僚の理解と協力が不可欠だが、本人がそのことに気兼ねや遠慮を感じては、治療効果も削がれてしまう。復職は治療やリハビリを乗り越える本人のモチベーションにもなっており、本人の「良くなりたい気持ち」を引き出すことも欠かせない」として発表を終えた。
社会医療法人 博愛会相良病院 病院長 相良安昭氏
1年当たりの日本人のがん罹患数予測は100万人とされており、このうち9万人が女性の乳がんとの推計がある。特徴的なのは比較的若い年代、働き盛りの年代に起こる可能性が高い点で、仕事を持ちながらがん治療・通院をする労働者の割合も女性の方が相対的に高い。この現状に対し相良氏は「乳がんは全てのがんの中でも比較的治りやすい病気。非浸潤がん(0期)から転移性乳がん(Ⅳ期)までがあるが、Ⅳ期においても治療によって症状緩和や生存期間の延長が見込まれ、放射線治療も副作用は少ない。治療しながら働かれる方は大勢います」と語る。また、がん診療連携拠点病院として、がん相談支援センターも設置している同病院での取組も紹介された。乳がんと診断された患者に対し「療養・就労両立支援チェックシート」を用いた両立支援の制度説明と制度利用(両立支援のプラン作成)の要望確認を行い、制度利用を望む場合には、主治医が職場(産業医)・患者や両立支援促進員と情報連携や調整作業を行いながら職場への理解促進、そして患者の職場復帰をサポートする流れが実例と共に紹介された。
司会:鹿児島産業保健総合支援センター所長 草野健氏
鹿児島産業保健総合支援センター所長・草野健氏を進行役に、この日の登壇者によるパネルディスカッションも行われた。両立支援はすでにあるガイドラインに沿って行うことが重要との話の中で、立石氏は医療機関の立場から「主治医に対し、企業から最低限、業種と職種、社内の支援制度の情報を提供して欲しい」と、対応を求めた。また、両立支援を進める際には、医療職も患者の仕事に関心を向け、企業と医療機関それぞれが歩み寄る必要があると発言。草野氏は、産業保健総合支援センターに両立支援促進員がおり、こうした外部リソースを有効に活用することも必要であるとまとめた。
両立支援のはじめの一歩をどう始めるかという話題では、児玉氏から「労働者の高齢化、人口減少がすでに分かっている現状では、危機管理という観点からも、対象者がいなくても両立支援に取り組む必要がある」と事前準備とすぐに始めることの重要性が語られ、立石氏からは「病気の人は様々な苦痛や困難を抱えている。まずは周りの人の『手伝うことありますか?』の一言から始めて欲しい」と、明日からの実践が呼び掛けられた。
最後に草野氏は「世の中の役に立っているという実感があれば、病気もよくなっていくはず。企業の皆さんには、働くことを希望される方々が生き生きと働ける場をつくっていってほしい」と締めくくった。
(左から)株式会社新日本技術コンサルタント 児玉史彦氏、三洋工機株式会社 システム部長 黒岩登志一氏、鹿児島産業保健総合支援センター所長 草野健氏、産業医科大学病院 両立支援科 診療科長・産業医 立石清一郎氏、社会医療法人 博愛会相良病院 病院長 相良安昭氏