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2025.03.07

起こるかわからないリスクより、起こるかわからない奇跡を信じたい

フードコーディネーター

長藤 由理花

卵巣がんと向き合いながらも結婚・出産を経験し、さらに“食”の世界で自身の夢を叶えてきた長藤由理花さん。彼女がインスタグラムに綴った「起こるかわからないリスクより、起こるかわからない奇跡を信じたい」という言葉は、多くの人に勇気を与えました。今回のインタビューでは、闘病中に変化した価値観や、夫との関係、SNS発信に込めた思いなどを語っていただきました。

会社員時代は社長秘書や営業職、生鮮食品EC担当など、さまざまな職種を経験されたそうですが、食のお仕事は当初から目指されていたのですか?

漠然と「いつか食の仕事をしたい」という気持ちはありました。実はフードコーディネーターの資格も持っていたんです。ただ、すぐに独立できるわけでもないので、最初はビジネスや営業スキルを身につけたいと思い、人材業界で働きつつ、営業も経験しました。その後、食のマーケティングを手がける仕事に声をかけてもらったんです。

病気を経て転職されたきっかけや、本当にやりたいことを見つけた経緯を教えてください。

営業職時代に、卵巣がんが見つかり、治療のため休職しました。復帰後、しばらくしてから「食の仕事をするなら今だ」と思い立ち、転職を決意したんです。
病気によって「いつかやろう」が「今やらなきゃ」に変わったのも大きいですね。人生いつ何が起こるかわからないということを意識すると、やりたいことを先延ばしできなくなるんです。

仕事とプライベートの優先度、価値観は病気前と後で変わりましたか?

一番変わったのは「健康を当たり前と思わない」ことです。以前は、健康なんて意識せずに「やりたいことが最優先」でした。でも病気を経験してからは、「生きていること」自体が一番の土台なんだと。もちろん仕事も大切ですし、今も忙しく働いていますが、体調を崩さないよう日々の暮らしを大切にするようになりました。

パートナーとの関係で、闘病中に特に支えられたエピソードはありますか?

夫(当時は交際2週間)の前で病気のことを告白するとき、「もう別れを切り出すしかない」と思い込んでいたんです。でも彼は「よかった、一緒にいられる」とすごくポジティブな言葉をくれました。私には衝撃的で、涙が止まらなかったですね。そこで「一緒に頑張る道があるんだ」と初めて実感できたんです。

ご本人Instagramから

病気によって「失った」と感じたことと、「得た」と感じたものがあれば教えてください。

当時は「全てを失う」と思っていました。髪の毛も卵巣も、結婚や子どもを持つ未来も、キャリアも……。でも、無事に病気が寛解したこともあり、最終的には何ひとつ失わずに済んだんですよね。いま振り返ると「考え方次第だったな」と感じます。

むしろ得たのは、「自分が選んだ道を正解にする」という強い意志かもしれません。治療方針も子どもを持つかどうかも、自分の決断を前向きに捉える力を養えた気がします。

結婚・出産・子育てを経験されたなかで、「生活」はどのように変わりましたか?

価値観や日常の優先順位がガラッと変わりましたね。子どもが生まれると、自分ひとりの問題じゃなくなる。病気の再発リスクも頭をよぎりますが、そのぶん「1日1日を大事にしたい」という気持ちが強くなったと思います。

SNSなどで情報を発信することで、新たな気づきや周囲の反応はありましたか?

実は積極的に「がん」について発信しているわけではなくて、どちらかというと日常の出来事や家族との時間を載せているだけなんです。でも、CM出演などをきっかけに多くの方が私のインスタを見つけてくださったみたいで、「同じ病気で辛いけど、あなたを見て希望が湧いた」といったDMをもらうことが増えました。正直、SNSの発信の言葉選びはすごく難しく、「がんが治ればこんな幸せが待っています」という発信はしたくない、できないと思っています。状況は人それぞれなので。ただ、そういう形ではなく、自分の今を私が発信し続けることで「誰かが希望を持ってくださることはもちろん嬉しい」と思っています。

日常の投稿が「何気ない幸せ」を感じさせる印象があります。意識的に発信されているのでしょうか?

全く意識はしていなくて、自分が日々大切にしていることを、娘や家族と共有する気持ちで残している感覚です。日常って、意外と当たり前でないことがたくさんあるんですよね。
だからこそ、小さな幸せや何気ない暮らしを切り取っておきたいと思うんです。もしそれが誰かにとって心温まるものなら、こんなに嬉しいことはありません。

ご本人Instagramから

最後に「起こるかわからないリスクより、起こるかわからない奇跡を信じる」心構えについて、改めて教えてください。

卵巣の全摘を提案されたとき、私は片方を残す選択をしました。もちろん再発リスクは高くなりますし、周囲には「怖くないの?」と言われることもありました。けれど、「子どもを持ちたい可能性が少しでもあるなら賭けてみたい」と思ったんです。

自分が選んだ以上、後悔しないように行動するしかない。そのスタンスが「リスクより奇跡を信じたい」という気持ちです。結果として私は出産を経験しましたが、万人が同じ結果になるわけではないかもしれません。 でも、「まだ見ぬ可能性」にかける強さを持ち続けることは、人生を前向きにしてくれると思っています。

「いつかやろう」を病気によって「今やろう」に変え、結婚や出産、さらには好きなことを仕事にするという道は、全て自分が正解にしてきた選択だと思っています。
そこには迷いも不安もありました。それでも「起こるかわからない奇跡」を信じる姿勢が、日々を力強く彩っているのです。多くの人が抱える「病気=失う」というイメージも命さえあれば覆せるものもある、と信じることで明日への希望へと繋がるのかもしれません。

プロフィール

長藤 由理花

フードコーディネーター

1992年生まれ。神奈川県横浜市出身。フードコーディネーターの資格を活かし、食にまつわるプロモーションのプランニングディレクターをしている。インフルエンサーとして、日々の子育てなどの情報も発信中。