治療と仕事の両立支援コラム
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2024.3.29
事業場との連携について
医療福祉相談室 主任医療ソーシャルワーカー
社会福祉士 両立支援コーディネーター
國弘 行正 氏
正確な情報の提供
両立支援を行っていく上で、患者と医療機関、患者と事業場での連携だけでは両立支援は成り立ちにくいことが多く、患者、医療機関、そして事業場が連携し円滑に作用すればするほど、両立支援が進んでいきやすい。そのためには、正確な情報のやり取りが重要になってくるが、その際にどのような方法で連携を行い、支援を進めていくかを考える必要がある。支援の方法は、患者や事業場の規模、風土などにもより画一的には行えないこともあり、また患者を介する間接的連携の場合もあれば、直接的連携を行う場合もある。患者の取り巻く環境を確認し、正確な情報を伝え共有しそして支援につなげていくことが大切である。
具体的な事例をもとにした連携方法
A氏 50歳代 女性 学校教諭。発症時から医療ソーシャルワーカーである私が両立支援のために関わっており、就労における意見書提出や面談などにより円滑な復職、治療と仕事の両立支援を進めることができていたが、「年度末の人事により、転勤することとなった。次の勤務先に現在の配慮事項などが、引き継がれるか不安」と相談があった。現在の学校長から引き続き配慮について引継ぎされる予定と言われていたが、必要であれば医療機関からの情報提供や私からの説明を提案した。しかしA氏からは「学校長に引継ぎをお願いしていることもあり当面は様子を見たい」との申し出があった。
新学期が始まり、定期受診時に同席し面談を行ったが、A氏より、「前勤務先から引継ぎが行われていたが、新しい環境や慣れない業務、また治療中のための疲れやすさもある。立場のこともあるが、慣れるまで時間がかかりそうだ」と言われた。「このままだと治療と仕事の両立に不安が残るため、もう一度病院から今の事業場に対し、治療経過や現在の身体状況などを説明ができないか」と提案し、A氏了承のもと新たな事業場へ連絡した。
事業場では学校長に対応していただき、私より今までの支援経過を説明した。新たな事業場からは、引継ぎを受けていたが詳細までは不明であり、A氏の裁量に任せていたこともあって、深くは理解していない様子であったが、「事業場が配慮したほうが良いところはどこなのか」などの発言も見られた。現在の職務内容など前事業場とは違うこともあり、業務内容がわかるような文書(勤務情報を主治医に提供する様式)を郵送していただき、その文書から医師や看護師と相談して、医師が配慮事項などを記載した就労における意見書を作成し、事業場へ私が意見書を持参し訪問、学校長と面談を行った。
結果、事業場において可能な限りの配慮をしていただけることとなったが、定期受診時には私と面談を欠かさず行い近況を確認した。現在も継続的に治療と仕事の両立をしている。
両立支援は患者相談だけでなく事業場からの相談も
前述の事例のように本人からの申し出により、文書や電話連絡、訪問などをして両立支援を進めていくことが多いが、事業場からの相談がきっかけとなって両立支援 を行うことも少なくはない。事業場から 従業員の両立支援を行っていくために、従業員からだけではなく、医療機関からより正確な情報を受けることにより、両立支援に活かせると考えられ、産業医により詳しい状況が伝えられるメリットや、業務の中で配慮事項など考えやすいとご意見をいただくことが多い。事業場からの相談がきっかけとなって 従業員の両立支援、復職支援プランの作成に至った事例を以下に紹介するが、事業場が病気に罹患した従業員の体調を考え、どのように治療と仕事を両立していくかを考えていくことは、従業員の安心感にもつながるのではないかと考える。
事業場から医療機関に相談のあった一例
B氏 20歳代 男性 工業系事業場勤務。事業場の産業保健師からメールで私宛に相談があり支援開始となる。元々他県で治療を行っていたが、今後当院で外来通院を行うこととなり、復職に向けて両立支援を行っていきたいという内容であった。
B氏は、当院への初診時に、産業保健師から業務内容などが記載された勤務情報提供書を渡されて持参していた。医師とB氏、私同席のもと、務情報提供書を踏まえての面談を行った。B氏については、私が産業保健師とやり取りをする中でテレワークも可能と聞いていたところであり、B氏もテレワークとして復職ができる時期を考えていた。当院の医師からは、産業保健師の意見も取り入れつつ、テレワークからの復職で慣らしていきましょうと説明。また、医師からの復職への意見を記載した主治医意見書をB氏へ渡し、その旨を産業保健師へ報告するように伝えられた。私からも産業保健師へ受診と面談の結果を報告。その後テレワークをしながら復職していただく復職支援プランが産業保健師により作成された。
現在、テレワークをしながら定期的に事業場へ出社し、産業保健師や現場上司と面談を行いながら、現場復帰するタイミングが検討されている。定期受診時に私と面談しているが、当面はテレワークで業務を行うことになっている様子である。
事業場と連携することから両立支援への可能性へ
文書や訪問を使った連携方法や事業場からの相談により支援につながった事例を紹介したが、どちらも正確な情報のやり取りを事業場と医療機関が連携を行ったことにより、治療と仕事を両立できた事例である。医療機関は事業場での働きがを詳しく分からないのと同様に、事業場では患者の治療など詳しく把握しづらい。医療機関と事業場が連携することにより、相互理解が深まり円滑な両立支援への可能性が広がるのではないかと思う。
國弘 行正
独立行政法人労働者健康安全機構 山口労災病院
医療福祉相談室 主任医療ソーシャルワーカー
社会福祉士 両立支援コーディネーター