治療と仕事の両立支援コラム
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2024.3.4
両立支援を実践するうえでのチームマネジメント
災害産業保健センター 教授
立石 清一郎 氏
マネージャーが対応すること
治療中のメンバーは、職場復帰直後は業務負担の軽減を申出ることが一般的です。長く休むと本調子に戻るのには時間がかかりますし、病気の治療による合併症・副作用があるときにはなおさらです。負担を軽減するために、まず個人のタスクの見直し、フレキシブルな勤務体系の提案などが行われます。
職場復帰においては「入口」と「出口」の戦略が必要です。入口とは職場復帰時にどの程度の業務を求めるか、出口とは病気の治療がある程度落ち着いた段階でどの程度の仕事を求めるか、になります。入口から出口までの時間を仮に3か月程度とすると、あまりに低い業務要求量で労働者を迎え入れると3か月で仕事にアジャストさせることになるので本人にとって大きな負担になります。また、マネージャーとして求める仕事量である「出口」の部分で困ることになります。したがって、無理なく復帰の手順を定める労使合意が重要で、一連の過程を示した「職場復帰プラン」を作成することが必要になります。
日頃から会社のルールに則り、復職支援することを周知しておく
仮に休業した際には、休業後に復職支援することを日頃から社員に周知しておくことが大事です。ルールが不明確だと、従業員は「休めない」と思って症状を隠してしまう場合があります。その結果、症状悪化などによる突然の退職や休職、無理をした結果の事故やトラブルにつながります。さらに、休む場合には診断書等どのような書類の提出が必要なのか、どのような場合に退職になるのかなどが不明確だと、労使トラブルにもなりかねません。
ルールがあっても、従業員が知らなければ意味がなく、「もしルールを知っていたら、もっと早く上司に相談できたのに」というケースもあります。治療しながら働ける両立支援の規定がされているのであれば、休職や復職のルールについて、管理職から知らせることができます。会社として病気の治療と仕事の両立をルールに則り支援することを従業員に周知徹底しておきましょう。
組織内のハレーションが発生するメカニズム
組織内でメンバーが不公正に取り扱われていると感じることは、チームの信頼と士気に大きな影響を及ぼします。この問題について、組織的公正性として3つの要因(手続き的公正性・分配的公正性・対人的公正性)について説明されており、従業員が職場復帰するときに、配慮等を実践することで影響を受ける同僚も含めて公正性が担保されるよう取り組む必要があります。
手続き的公正性として、意思決定プロセスが透明でなく自身が参加できていないと感じることがないよう、就業配慮により影響を受ける同僚には説明をしたうえで、影響を受ける範囲について合意が必要になります。一方的に負担を負わせないようにする必要があります。
分配的公正性として、負担の増えた同僚については、給与、昇進、業務配分などの資源がどのように分配されているかについて、人事考課などで業務に対する適正な評価と説明をすることが必要になります。
対人的公正性は、上司や組織が個人をどのように扱うか、情報がどのように共有されるかについて、従業員が不公正だと感じる原因となることがあります。尊重の欠如や偏見の存在、情報の非公開や一方的な情報提供は、不公正感を引き起こす可能性があります。
組織内でボタンの掛け違いが発生しないためには
組織内での効果的なコミュニケーションは、チームの生産性と士気を高める鍵です。これを実現するためには、いくつかの重要なステップがあります。
まず、明確なコミュニケーションが必要です。具体的な指示と期待の設定を通じて、誤解の余地をなくし、透明性を確保することが重要です。決定や方針、変更点をオープンにし、必要な情報を適時に共有することで、チームメンバーの理解と信頼を得ることができます。
次に、定期的なミーティングや個別の1対1のミーティングを設けることで、進捗や懸念事項を共有し、双方向のフィードバックを奨励します。これにより、チームメンバーは自身の仕事に対するフィードバックを得ることができ、また上司やリーダーに対しても意見を伝える機会を持てます。
オープンで包括的な文化の構築と維持も重要です。異なる意見やアイデアを歓迎し、多様性を尊重することで、チーム内の心理的安全性を確保します。これにより、チームメンバーは自由に意見を述べ、クリエイティブなアイデアを共有することができます。役割と責任の定義も不可欠です。各メンバーの役割と責任を明確にすることで、誰が何を担当しているのかをはっきりさせ、効率的なチームワークを促進します。
先入観や偏見、社会的比較も重要な要因です。ステレオタイプやバイアスの存在、他者との比較によって生じる不公正感は、組織内の信頼と士気に影響を及ぼします。さらに、組織の変化に対する抵抗感も、不公正と捉えられることもあることから日ごろからこのような病気になった人が復帰するときのことを話し合っておき、抵抗感が感じにくくすることも必要と考えられます。
立石 清一郎
産業医科大学 産業生態科学研究所
災害産業保健センター 教授
平成12年産業医科大学医学部卒業。平成21年より産業医科大学産業医実務研修センター教員を経て、平成30年より産業医科大学病院両立支援科診療科長および就学・就労支援センター副センター長。令和3年より産業医科大学産業生態科学研究所災害産業保健センター教授。資格は労働衛生コンサルタント(保健衛生) 、日本産業衛生学会専門医・指導医、日本消化器病学会専門医など。産業医科大学災害産業保健派遣チーム事務局。研究テーマは両立支援、災害時の労働者の健康管理など。令和3年度日本産業衛生学会奨励賞。令和3年度福岡防災賞。