治療と仕事の両立支援コラム
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2023.3.31
健康保険組合とコラボで進める両立支援
冨山 紀代美 氏
小売業の中小企業―現状と課題―
私の所属する総合型の健康保険組合は、全国のスーパーマーケットやドラッグストア、百貨店などの小売業者、約270社が加入しています。スーパーマーケットと言えば、新型コロナウイルス感染症の緊急事態宣言時に「日常生活の基盤を支えるエッセンシャルワーカー」として必死に業務に取り組んでくださったことが記憶に新しいかと思います。企業としてはコロナ禍の売り上げは上々で、また、従業員にとっては社会保険の適用拡大がされたことから(同時に健康保険組合への加入も増加)、生活の基盤が今までより固めやすい状態となってきました。
とはいえ、まだまだ他業種より正社員が少なく、スーパーマーケットで夕方にレジで働く方のようなパートタイム雇用が多いことから、5年で約半数の従業員が入れ替わる企業もあるのが実情です。また、当健康保険組合には従業員100人未満の企業が半数加入しており、そこでは専任の産業医はほぼ在籍せず、産業保健師等を抱えている企業も数か所です。そのため現在は、それぞれ店舗の管理職(店長等)が店舗の運営のみならず、衛生管理者の資格を取得するなど、従業員の健康管理に携わっている企業が増えてきています。
総合型の健康保険組合の両立支援へのかかわり
当健康保険組合の加入企業では、対象者が休養に入ってから店舗より連絡が入ったことで人事部署が気付き、職場復帰の際に慌てて健康保険組合の産業保健師等が相談を受けるケースがほとんどです。
そもそも、総合型の健康保険組合が「両立支援」に携わることは多くはないですが、相談をうけたケースに対して企業と一緒に対応しながら、そして、本来その企業での望ましい形の両立支援とは?などを産業保健師等の立場から一緒に考えます。
ここ最近は、健康経営を目指す企業から両立支援に取り組みたいという声を聞くようになりました。
<ケース1>
脳梗塞で入院されていたAさんの職場復帰の際、産業医から主治医の診断書を基に「以前と同じ業務は可能であるが、深夜業務のみを禁止」との意見があった。幸いなことにAさんはスムーズに以前の職場に適応できたが、深夜業務の制限の解除は、誰が何を基準に職場内で調整すればいいのかなどのルールがないために、どうすればいいかわからない・・
<ケース2>
がんで長期に入院されていたBさんの職場復帰を検討したいが、産業医には「職場復帰は主治医の意見で行うものだ」と言われ、主治医には「病気のことしかわからない」と言われ板挟みになった。人事の担当者は、店舗開発部署から異動してきたばかりで、Bさんの病状や治療予定、また、勤務の状況などの引継ぎが十分にできておらずどうすればいいのか・・
事例から今後へ・・
健康保険組合として上記のようなケースには、もちろんその場での対応もしますが、中長期的に企業内での制度の構築が大切であることを「事業場における治療と仕事の両立支援のガイドライン」等もご提示して説明します。
「両立支援」という言葉は聞いたことがあるが、何をもってそういうのかはよく知らないという担当者が行き詰まってしまう場面も多い半面、言葉は十分に理解していなくても、お互いを思いやることでコミュニケーションが取れ、信頼関係が築けている企業では、各現場でそれぞれでの対応や配慮が柔軟にできており、実質的に両立支援がなされている場面にも出会います。その場合、当健康保険組合はその後押しをするだけといったこともあります。
当健康保険組合の加入者は小売業の店舗勤務者が大半で、職場の環境は担当の業務によって多種多様です。私たち総合型の健康保険組合は、加入していただいている企業をサポートすることで、それぞれの職場に合った形での両立支援が構築され、従業員(加入者)にとって安心安全な職場環境となることを願い活動しています。
冨山 紀代美
デパート健康保険組合 保健事業部長 統括保健師
行政保健師、食品メーカ、大手エネルギー関連会社の健康保険組合などを経て
現職。筑波大学大学院修了。
保健師、衛生管理者、看護教諭などの資格を持つ。
治療と職業生活の両立支援治療経過別パターン別マニュアル作成部会委員等も務める。