厚生労働省

治療と仕事の両立支援ナビ

両立支援の取組事例

両立支援対象者の相談依頼から職場内外でのサポート体制づくりが始まった事例

事業場内管理者(キャリアコンサルタント)による従業員へのサポート事例

1.支援のきっかけ・経緯
  • C氏(研究開発職、50代男性、肺がんに罹患)
  • 製造業、従業員数は1,000人以上C氏の上司がキャリアコンサルタントの資格を有しており、C氏からの相談の申出をきっかけに支援が始まった。
2.支援の具体的内容

●相談の概要:がんと診断され混乱しているC氏

C氏は肺がんと診断され最初はショックで何も考えたくない状況のように見受けられた。面談を始めると、仕事や家族のことを心配し、治療しながら働けるのか、入院中は自分の仕事は誰がやるのか?そもそも後任へ引き継げるのか、など不安を話し始めた。「私、やっぱり死ぬんですよね?」と訴えかけるように話していた。一方で、同僚から仕事内容の変更や仕事量の削減の提案、さらには治療に専念するよう言われたことに腹を立てていた。「今の仕事(役割)から排除されたら従業員である必要はない!会社や職場から邪魔者扱いにされたような気持ちになる」と打ち明けてきた。


●支援の見立て:部下C氏の意思や希望を踏まえた支援を検討

  • C氏にとって、入院中や在宅療養中に職場を離れることは重大事項であることが明らかになった。死の恐怖を感じながらも自分の身体以上に仕事や家族のことを気にしており、「職業人としての存在価値」を失うことを恐れている。
  • C氏は、がん治療中どこまで働けるのか、また、治療後の回復イメージや職場復帰後のイメージがまだ持てていない。キャリアコンサルタントとして、C氏の性格や職業観などを踏まえ、キャリア形成上の支援を意識する必要がある。

●具体的な関わり・支援内容:C氏の自分らしさを実現するキャリア支援と組織への働きかけ

  • 今できることを考えられるよう、まずは、思い切って打ち明けてくれたことを労い、複雑に絡み合う気持ちや懸念を一つずつ丁寧に聞くことによって思いを整理した。
  • C氏にとっての「職業人としての存在価値」を明らかにするために、改めて現在および過去の業務から自分にとって仕事とは何か、大切にしたいことは何かを話してもらった。その中で、「今の仕事(役割)は自分にしかできない、自分がその役割責任を果たすことでやり甲斐となる」という自分らしさが明確になった。
  • この自分らしさを失わないように、あえて仕事への目標設定をしてもらい、職場内との関係性について具体的に話し合った。

※相談を受けた上司は管理者として、C氏への支援だけでなく、職場内の従業員のキャリア形成上の支援を並行して行うとともに安全配慮等の視点から職場内外との連携を深め、サポート体制・環境整備を進めた。

3.支援の結果(効果)
  • 面談後、C氏は目標や今準備することが明確になったことで安堵した様子であった。「この仕事は自分しかできない、だけど病気を考えると短時間で後任を育てないといけない」という想いから、C氏から病気のことを職場内の従業員へ伝える意思を固め、相談をしてきた。
  • 具体的に何をどこまで伝えたいか、C氏と十分に検討を行った上で、昼礼で話ができるよう段取りを整えた。
  • 業務マネジメントと並行してキャリア形成支援を取り入れたことによって、C氏が治療を乗り切るモチベーションを向上させることができた。「自分らしく仕事を組み立て、実践させて貰ったことが嬉しかった。仕事の目標達成を目指すことで治療も頑張れた」とC氏は話していた。
4.支援を行う上での苦労・工夫
  • C氏が職場内へ病気を開示する前後で態度が変化しないよう、他の従業員と同じく“普通”に接するように心がけていた。
  • この支援で良かったのか?C氏の思うようにして良かったのか?どこまで介入すれば良かったか?強引すぎたか?など迷いながら支援を進めた場面もあったが、その際には関係部署へ相談した。また、キャリアコンサルタントの仲間や学びの場から支援のヒントを得るようにした。
5.今後の課題・展望
  • 管理者として、C氏への支援継続を進めるとともに、職場内の従業員への理解と協力を得る必要がある。また、C氏以外の従業員が動揺することも考えられ、個別の面談や職場で話し合う場を設け、今以上に互いの業務を支え合う関係性の構築が必要である。
  • 管理者単独の支援には限界がある。C氏の安全配慮および環境整備のために、人事や産業保健スタッフらとの情報確認や連携が必要である。これがあって職場内でのキャリア支援が可能となる。
  • C氏の個人情報は、本人から同意を得ることができれば関係者間で情報共有ができ、連携した支援を可能にするが、機微な情報を含むため、個人情報の保護と情報共有の両立が課題である。
  • 本事例は、管理者がキャリアコンサルタントであったことにより、日常的に支援しやすい状況であった。しかし、一般的にはそうではないため、事業場として以下を行っておくことが望ましい。

① 患者個人の能力を発揮できるよう職場環境を直接調整できるのは管理者であり、日頃から職場内でのコミュニケーションを円滑にし、気軽に相談しやすい環境を作ることで、患者本人から発信しやすくなる。
② 知識や経験の不足からC氏に対して不利益となる発言や態度となるおそれがあること、職場内では話しづらいデリケートな情報や状況等もあることから、事業場の内と外の2つの支援と連携体制が整備されていると安心である。
③ 多様な従業員を抱える管理者に向けて、ダイバーシティの一環として社内への啓発活動を行うことで、職場内の理解を得やすくなる。
④ 人事、産業保健スタッフ(産業医、保健師など)や関連部署とのやり取りを日頃から進めておき、支援の申出があった際に、個人情報に配慮しながら連携を進める。さらに、外部による専門家や支援機関(産業保健総合支援センターなど)を活用できるとよい。


*参考情報:厚生労働省ホームページ
キャリアコンサルタントおよびキャリアコンサルタントの専門性を活用したセルフキャリアドックの詳細はこちら

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/jinzaikaihatsu/kigyou_gakkou.html

この事例は特定非営利活動法人日本キャリア開発協会の依頼により高橋浩先生(ユースキャリア研究所代表)が監修しています。

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