両立支援の取組事例
補助人工心臓の理解を深めて不安を解消。
サポーター育成と職場環境を整備し
心臓移植待機社員の両立を支援
ダイハツ工業株式会社
- 会社名
- ダイハツ工業株式会社
- 所在地
- 大阪府池田市
- 事業内容
- 自動車製造業
- 従業員数
- 12,796名(2018年4月1日現在)
- 産業保健スタッフ
-
常勤76名(産業医10名、保健師7名、看護師22名、
検査技師11名、臨床心理士3名 他)
世界中から愛されるスモールカーを世に送り出しているダイハツ工業。「ダイハツグループは、世界中の一人ひとりが自分らしく、軽やかに輝くモビリティライフを広げます」をブランドビジョンに掲げ、毎日の暮らしに寄り添う軽やかな車を作りつづけている。
ダイハツ工業における心臓移植待機社員の治療と仕事の両立支援の取組について、同社保健センター長の三嶋正芳氏にお話を伺った。
日本における臓器移植手術までの待機期間は1,000日を越えている。この背景には、国内での手術数不足が影響している。
一方、米国は人口3億人あまりで年間に2,500例の移植手術があり、平均待機日数は120日。半年以内に手術治療を受けられる状況だという。
「移植待機の期間は、補助人工心臓の助けを借りて生活や仕事をすることになります。このとき、会社としてしっかりと治療と仕事を両立できる支援環境を整える必要があります」と三嶋氏は語る。
この支援環境の整備は、具体的には職場の理解を促すことや安全な導線確保と2S(整理・整頓)の徹底に加え、万一の時にトラブル対応できる“サポーター”人員の確保である。
サポーターの主な役割について、三嶋氏は次のように説明する。
「まず『人工心臓のトラブルへの対応』です。バッテリーの残量不足やポンプ、ケーブル等の接続不良が発生すると人工心臓システムから警報が鳴る仕組みになっているので、その対処法を、治療者の復職の目処が立ったところで職場の同僚に講習を受けてもらいました。
2つ目が『脳卒中症状の発見と対応』です。時に、人工心臓の回路内にできた血栓が脳の血管に詰まることがありますので、なるべく早く発見して、対処法を習得しておきます。
また、治療者は、急な振り返り動作や前屈、しゃがみ込みの姿勢を取ってはいけないので、床に落ちた物を拾ってあげるなどの『勤務中のサポート』も重要です」。
しかし当初は、補助人工心臓の手術を受けた社員が復職するにあたり、職場からは様々な不安が聞かれたという。
「以前、体調不良が多かったり、入退院を繰り返していたりしたので、術後は体調が良くなったと言われても懐疑的でした。
多くの人は人工心臓についてまったく知識がない上、トラブル対応なんて大丈夫なのか、という不安もありました。
職場の環境整備も見当がつきませんし、サポーターは、人数の確保が小さな職場では難しいのではないか、という声もありました」(三嶋氏)。
このように職場では不安の声があったが、補助人工心臓植込の手術を受けてから3か月後の社員が姿を現わすと、あまりの元気さに周りの雰囲気は一変した。
「復職前に、男性社員ご夫婦が保健センターに来られました。以前とは違って顔色がよく、息切れもなく元気に歩いておられたのでビックリしました」と三嶋氏は振り返る。
さらに職場の同僚が病院(大阪大学医学部附属病院心臓血管外科、国立循環器病研究センター移植医療部)の実施するサポーター講習を受講することで、補助人工心臓の手術を受けた社員への理解が深まっていった。
また、『茨木市・吹田市の小・中・高校が補助人工心臓植込の生徒を受入れ』という新聞記事も受入れへの理解を後押ししたという。
「職場における受入れへの理解が広まっていき、該当社員一人当たり約10人のサポーターを養成することになりました。
これはサポーター一人ひとりの業務に支障がないように会議や休憩、食事等で職場を離れることや、休暇や異動などを考慮した結果です。もちろん職場内の整理整頓も従来にも増して徹底しました。
特に該当社員の社内移動に関わる導線の安全確保(2S:整理整頓)は重要視しています」と、三嶋氏は紹介する。
心臓移植待機社員にとって、治療と仕事を両立させるための条件は3つある。
1.「住居・職場」と「植込型補助人工心臓認定施設」へ救急車両で2時間圏内であること。
2.サポーター(家族や職場社員)は講習を受けて、機器トラブル対応や脳卒中など、発症時の緊急対応を習得する必要があること。
3.講習とトレーニングを受けたサポーター(家族や社員)は、患者と24時間生活を共にする(会社内では社員が、会社外では家族が該当する)こと
ダイハツ工業には数名の心臓移植待機社員がいるが、上記の条件を満たし、両立支援を実施することで職場復帰が可能となり、働きながら移植を待っているという。
「治療と仕事の両立支援を通じて、会社にとって大切な人材が活躍できる環境を提供することは、治療者と会社の両者にとって有益なことです」と総括する三嶋氏。毎日の暮らしに寄り添う軽やかな車づくりを続ける企業には、社員一人ひとりが自分らしく働ける職場が用意されている。